エッセイ

おしゃれキャンプに憧れ、玉砕する

おしゃれBBQ料理

今から数年前、空前のアウトドアブーム、キャンプブームがやってきた。

テレビでもキャンプ特集が頻繁に組まれ、おしゃれなアウトドアグッズやダッチオーブンなどを使ったキャンプ料理の紹介などを目にすることも多くなった。

ショッピングモールでもアウトドアブランドが大きなスペースを使い、魅力的な最新のキャンプグッズをたくさん並べていた。

そして私たちもショッピングモールに置かれていたアウトドアブランドのオシャレな写真のたくさん載ったカタログなどを手にして眺めているうちに、だんだん煽られて、その気になってきてしまった。

昼はダッチオーブンやコンロで豪快な煮込み料理やBBQなどのアウトドア料理を楽しみ、夜は火を焚いて、素敵なキャンピングチェアに座り、かっこいい柄のブランケットなどにくるまり、ゆっくり語らいながら大人はお酒を飲む。

子供たちはそのそばでマシュマロなどを火にかざして焼き、キャッキャッと盛り上がりながら楽しそうに食べている。

テントでは雰囲気の良いランタンの明かりで、日常とはちがうゆったりとした時間を過ごしながら家族団らんを楽しむ。

朝は自然に目が覚め、きれいな空気を吸いながらチーズとハムの入ったホットサンドなどつくり、コンロでお湯を沸かしシルバーのマグカップでコーヒーを飲む。

おいおいおい・・・なんだその世界は・・・

くぅ・・・素敵すぎるじゃないか・・・
素敵すぎて考えるだけでめまいがしてきそうだ。
おしゃれキャンプ キャンプファイヤー

そしてついに、「オシャレなキャンプを家族で楽しもう!!オー!」という結論に至り、今から思えば悲劇の“暴走”の幕が切って落とされたのであった。

おしゃれキャンプへ暴走開始

さっそく、アウトドア用品店に足を運び、様々なキャンプ用品をチェックしまくった。

テントは本当に色んな種類があり大きさやブランドにより値段も様々であったが、キャンプの基本はテントだし、心地よいキャンプを楽しむために、ここは思い切って大きくてかっこいいものにしようと一大決心し、10万近いテントを大奮発で購入した。

そしてキャプテーブル、大人用と子供用のキャンプチェア、調理用のツーバーナーコンロ、シングルバーナー、ツーバーナーコンロを設置できるキッチンテーブル、おしゃれなランタンを数種類、寝袋やマット、キャンプ用の扇風機、ウォータージャグ、かっこいいクーラーボックス、薪を燃やすためのファイヤープレイス、そのほかおしゃれキャンプを彩るたくさんの小物や調理器具の数々・・・それにアウトドア料理のレシピ本。

気付いたら莫大な金額を、頭に思い描くおしゃれキャンプのために投資していた。

しかし、これらは家族で気分よく有意義な時間を楽しむための最初の投資だし、これからたくさんキャンプにでかければしっかり元が取れる。ただただ流行にのって洋服やバッグなどを買いあさったのではない。これは無駄な買い物ではないのだ。

そう自分に言い聞かせ、おしゃれキャンプの決行日を首を長くして待ちわびていたのであった。

そして、とある夏の日、満を持しておしゃれキャンプの初日を迎えた。

まずは初めてということで、自宅から1時間ほどで気軽に行けるオートキャンプ場に出かけてみることにした。

その日はうだるような暑さであった。

オートキャンプ場に到着して、まずはテントを組み立てようと準備をすることにした。
奮発して購入したテントはやたらと大きく、キャンプ初心者の私たち夫婦はその場で初めて説明書を読みながらテントの組み立てに挑んだのだが、なにしろ骨組みなどのパーツがものすごく多くて、炎天下の下、噴き出す汗をぬぐいながらああでもないこうでもないと大苦戦であった。

頑張って伸ばした骨組みを苦労しながらやっとの思いでテントに通したのに上手く立ち上がらず、もう一度説明書を読み直し「間違った!ここじゃない!(涙)」などと間違いを発見し、また一からやり直し。あまりの暑さと、無駄にデカすぎるテントにだんだん苛立ってくる。

そのうち、
「お前の要領が悪いからだ!ばか!(憎)」
「自分の指示が間違ってるじゃん!人のせいにすんな!!(怒)」
などと、私たち夫婦は毎度おなじみ暴言のキャッチボールがどんどん加速し、
おしゃれキャンプ以前に「なぜ私たちは夫婦でいるか?」という根本的な疑問が浮かんでくるほどの罵り合いに発展していったのであった。

ようやくテントが組み立てられたころには、まだキャンプを開始して間もないというのに、心身共にかなりのグッタリ感に見舞われており、このテントを明日の朝にはまた罵り合いながらたたむのか・・と考えるだけで気が重くなってくるのであった。

しかし、私たちはこのおしゃれキャンプのために莫大な予算をつぎ込んできたのだ。
何がなんでも、楽しまなくては投資の元がとれない。

何とか気を取り直すと、この日のために揃えたキャンプグッズを次々設置し、用意してきた食材でアウトドア料理を作った。

ビールをあけて念願の乾杯!

なんとなくのおしゃれキャンプっぽさを味わいながら、やっと家族での楽しい時間を「若干の間」過ごしたのであった。

なぜ「若干の間」だったのか・・

いつもはビールを飲みだしたらとまらないほどビールが大好きで、アウトドアもBBQも大好きな私なのだが、昼間にテントの組み立てにてこずり熱中症寸前まで炎天下で加熱され汗をかきすぎたため、しょっぱなからかなり体力を奪われたことで猛烈なだるさが襲ってきてしまったのだ。

私は早々に料理や調理器具を片付けて、子供たちと一緒にシャワーを浴びてくることにした。

オートキャンプ場にシャワーの設備があることは予めネットで見て知っていたのだが、シャンプーやボディソープがあるかどうかがわからず念のため自宅から持参していたので、そのシャワーセットを持って子供たちとシャワーを浴びに行った。

だがシャワールームに行ってみると、そこにはシャンプーもリンスもボディソープも備え付けで置いてあったっため、私たちは持参したシャワーセットをそのまま持ち帰ってきた。

私たちが戻ってきたのと入れ違いに主人がシャワールームへ向かっていった。
ところが、ものの数分で戻ってきたのだ。
どうやら男性用のシャワールームにはシャンプーなどの備え付けが無かったらしいのである。

主人は、シャワールームにシャンプーの備え付けがないのならなぜ手ぶらで行こうとする自分にそれを教えなかった?とブツブツ怒り出したのだが、私としては女性用のシャワールームに備え付けがあったので当然男性用のシャワールームにもあるものと思いこんでいたし、そんなことでまたああでもないこうでもないとブツブツ言われたことでイライラしだし、私たち夫婦はこの日の第2ラウンドに突入したのであった。

気分は最悪だ。

大金かけてキャンプ用品をあれもこれもと用意してノコノコこんなとこにやってきたっちゅーのに

テント出すだけで至難の業だし

体から水分が失われてミイラ寸前だし

調理のテーブルとかたたむのも大変だし運ぶのもクソ重いし

ウォータージャグなんてオートキャンプ場には水道が完備されてるんだから無駄だし

子供たちはそこまでマシュマロなんて好きじゃないし

そもそもおしゃれキャンパーはキャンプ場で大げんかとかしてないし

とにかくもう我慢の限界だ。

このままではBBQの串でフェンシングの試合が始まってしまいそうだ。

とにかく、すべて忘れてもう寝てしまおう。
なんとか気を取り直すとテントに入り、みんなで横になった。

横になったのだが・・・・・

暑い・・・。
我慢して寝られるレベルの暑さではない。まるでサウナだ。

そ、そうだ!

こんな時のために買ったキャンプ用の扇風機があるじゃないか!
さっそく扇風機を持ち込み、スイッチを入れる。

羽根が回りだす・・・。

・・・は?

・・・・・・・なんだ?この、爺さんのため息レベルの弱風は・・・。

っていうか誰だ?これアウトドア用として開発したヤツと販売をOKしたヤツは!!!
そして誰だ?これ買ったヤツはーーーーー!!???(怒)
ただじゃあるまいし!!!!

暑い・・・イライラする・・腹が立つ・・・
みんな熱中症になってしまうじゃないか。

その時だった。
テントの中に「俺、帰る」という声が響いた。
主人だ。

え?と唖然としているうちに、主人はさっさと車に乗り、走り去ってしまったのだ。

なんだこれは?

家族でキャンプにきて、夜中に嫁と子供を置いて自分だけ車で帰る人なんてこの世界にいるのだろうか?少なくとも関東地方にはそんなのこの人ただ一人なのではないだろうか?
それとも私が知らないだけで、そんな人って割といるのか?
いやいや、そんなわけないだろう・・・。暑さで思考がおかしくなってくる。

サウナ状態のテントの中で眠れず、イライラしながら考えていると、
どこからともなくガサゴソという音が響いてきた。

待って!!!!
ちょっと!?まさか今度はジェイソン!?

恐怖に震えながら音のする方を確認すると、近くの茂みから出てきたと思われる野良猫が私たちのテントの食材を狙ってガサゴソと物色している。

なんだ、猫か・・・
そりゃいくらなんでもジェイソンは無いわな・・・

私は安堵しながらもシッシッシッシッ!!!!と猫を追い払った。

再び横になると、すぐにまた野良猫のガサゴソが聞こえてくる。

チッ・・・

私は立ち上がるとまた猫を追い払い、食材すべてが猫が届かないテントの内側に入っているのを確認し、もう一度横になった。

だがまたまた間髪入れず聞こえだす野良猫のガサゴソガサゴソ音・・・・

あーーーーもう!!!!!!!!!

うるせーーー!!!!
てめーーーーー!!

ふざけんなっーーー!!

あっち行けーー!!!

夜中のオートキャンプ場に私の怒号が鳴り響いた。
地面の砂利を両手に掴んで暗闇の中に投げつける。

ハァハァハァハァハァ・・・くそ・・・

なんだこれ。

何がオシャレキャンプだ。
どこがオシャレキャンプだ。

精神と肉体をいたぶられる拷問じゃないか・・・。

その時だった。

砂利道を走る車の音が聞こえ、起き上がってみると帰ったはずの主人が戻ってきた。
オートキャンプ場は防犯のため夜中に車が出入りできないよう封鎖されているらしく、
出口まで行ったはいいが車を出すことができず、帰宅を断念したらしい。
聞けば、翌朝には迎えに来るつもりだったとは言うが・・・
それにしても封鎖されていなかったら本気で帰ったのだな、この人は・・・
嫁と子供を残して・・・

かくして私たち家族は暑い夜をなんとかやり過ごし、翌日には夫婦で暴言の剛速球を投げ合いながら大騒ぎでドデカいテントをたたみ、みなグッタリしながら帰宅の途についたのであった。

それ以来、二度と家族でキャンプに行くことはなかった。

どデカいテントは自宅の庭に広げっぱなしにし、子供たちの友達が来た時の遊び場になったが、1年以上庭に放置した結果、劣化が進み、生地が手で割けるほどにボロボロになり最終的にゴミ処理場に持ち込むこととなった。

その他のキャンプ用品はヤフオクで次々に売り飛ばし、無駄にした資金の回収に努めた。

アウトドアブーム、キャンプブームは現在も続いているようだが
オシャレにスマートにキャンプを楽しんでいる人たちを見ると
あの日の自分達の醜態を思い出し、遠い目になってしまう私なのであった。

ABOUT ME
富岡紗和子
神奈川県湘南在住、占い師(帝王命術売占い鑑定師・四柱推命鑑定師)ラジオパーソナリティ・エッセイ作家・法人役員(役員暦24年)の富岡紗和子です。 現在、二人の娘を持つ母でありサーフィンとビールをこよなく愛するアラフィフ女子です♪ ⇒ ⇒ 詳しいプロフィールはこちら