エッセイ

“馬鹿になった毛穴たち”と、アラフォー女子にまつわるエトセトラ【面白いエッセイ】

富岡紗和子 占い

昨年の今頃のことである。

我が家の2人の娘たちから、学校の持久走大会のために走る練習をしたい!と相談があった。平日フルで仕事をしている私は、仕事が終わったあとの時間なら・・と娘たちの申し入れを承諾し、ある日3人で夜の小学校の校庭にやってきたのであった。

娘たちからすると、普段毎日通っている慣れ親しんだ学校の校庭ではあるが、夜の暗い校庭というのは妙にテンションが上がるらしく、持久走大会の練習をしたいという最初の目的から外れ、「ママ、見て!!」と鉄棒の技などを披露し始めてしまった。

私も小学生の時は本当に鉄棒が得意だった。

前回り、後回り、足掛け回りなどなど毎日サルのように鉄棒の上で遊んでいた。そんな状態だったから、鉄棒が苦手な子、ましてや逆上がりができない子などを見ると、なぜできないのだろう?こんなに簡単なのに、、と心から不思議に思っていたほどであた。

しばらく娘たちの鉄棒姿を見守っていた私なのだが、久しぶりに自分もやってみようかな~などと思い立ち、手始めに簡単な逆上がりをやってみたのだ。

だが・・・あれ!?

思うように腕に力が入らず足が持ち上がらない。あんなに簡単だった逆上がりが・・・

まさかできない??
いや、そんなはずは!! 焦った私は両手の指にはめていた指輪を全部外すと、もう一度強く鉄棒をつかみ構えなおした。とりゃーー!!!鉄棒付近であまり耳にすることがないような奇声を張り上げながら、私は思い切り力をこめて足を振り上げた。

ぎゃー!!!

絶叫と共に何とか足が鉄棒の上にかかり、何十年ぶりの逆上がりは成功した・・・のだが・・・逆上がりで体が回転したと同時に脳もひっくり返ってしまったのではなかというほど激しく目が回り、夜空に浮かぶ星がすべて流れ星に見えるような錯覚に陥った挙句、自分が今、上を向いているのか逆さまであるかの判断もつかないほどの眩暈に襲われたのである。

SEKAI NO OWARI・・・

頭の中にはもうその言葉しか浮かんで来なかった。
しばらく激しい眩暈と戦ったあと、ようやく視点が合い、地球の揺れはおさまった。

自分がもうあの時のように身軽に動ける体ではないことをその時、今更ながら嫌というほど思い知ったのであった。

今まで、あまり自分の年齢を深く意識することなく過ごしてきた私ではあるがアラフォーに差し掛かったとたん、気づけばあちこちに納得のいかない支障が現れ始めている。

お肌の張りがなくなり小じわが増えたなどの見た目的な衰えは、もちろんテンションが下がるものだ。毎日コラーゲンサプリを摂取しPAOなどの美容器具でほうれい線予防などにいそしむも、当たり前だがやはり若いころのままとはいかず、自分がお肌の衰えに悩む世代になっていること自体に切なさを感じる日々である。

しかし日頃感じる様々な体の衰えの中で特に不可解な変化と言えば、まつ毛や髪の本数が明らかに若い頃よりも少なくなり、ハリが減っていくという事実に相対して、アンダーヘアのみ勢いを増していくという、心底納得のいかない衝撃の事実である。

おいおい、そこにそんな勢いは必要ないだろう?

入浴時に鏡に映る自分のアンダーヘアに問いかける。

お前たち、何をシャカリキになっていやがるのだ?

そこの毛にそんな勢いを注ぎ込むパワーがあるのなら、もう少し髪の毛やまつ毛に余力を分けてやってはもらえないだろうか?
 
アラフォー女の「勢いを増したアンダーヘア」など誰からも求められていない。
 
歳を取ったお爺さんで、眉毛が異常に長く伸びている人をたまに見かけることがあるが、あれは毛根が加齢とともに馬鹿になり、どこまでが適度な長さなのかがわからなくなり、伸び続けてしまうのだ、という説を以前にTVで見たことがある。
 
この説が仮に真実であるならば、この血気盛んな私のアンダーヘア達は、全員毛根が馬鹿になっている馬鹿集団と考えるのが妥当であろう。
 

私の若かりし時代は、エステの脱毛といえば主に手足や脇などのムダ毛を処理するのが一般的であった。私もその流れに乗り、20代のうちに美容クリニックで脇の脱毛などは完了したが、当時はまだ下の毛を脱毛する文化がほとんど浸透していなかった。

その後私が結婚、出産など一通りを経験した頃から、美容業界ではアンダーヘアの脱毛もごく一般的になっていったわけだが、その頃には今更もうアンダーヘア脱毛なんて私には必要ないだろ!とタカをくくっていた。

だが、これでは話は変わってくる。

先日、同級生の友人としみじみアンダーヘアについて語りあってみたところ、その友人もアンダーヘアの群れからかなり離れたところに突然出現する、一匹狼ならぬ一匹アンダーヘアの存在に毛穴が馬鹿になっていることへの実感を深めており、ビールをすすりながら慰め合った。

そんなこんなで、気持ちと裏腹に衰えていく外見、また一見人様からは見えない部分の老化に、やるせない気持ちを募らせている今日この頃であるわけだが、その反面、私の大好きなおしゃれに対する探究心は全く薄れておらず、先日、久しぶりに大きなショッピングモールに出かけた。
 
暑かった夏が終わりゆく季節の変わり目、秋物の、ニットや小物を見ているとやはりテンションが上がる。洋服屋さんやバッグ屋さんなど、ワクワクしながら見て回った。
 
そしてとある若者向けの雑貨屋さんで、可愛い女の子がモデルをつとめるカラーコンタクト売り場が目に入った。
 

私も10代のころはハーフ顔に憧れて、明るい茶系のカラコンを付けていた時期があったが、元々視力が良くコンタクトを付ける習慣がなく生きていたため、コンタクトで目が疲れることとお手入れが面倒な事で、いつのまにか使用をやめてしまった。

当時は茶系がメインだったカラコンも、今や微妙なパープルやグレー系が充実していて、見ているうちにすっかり心が奪われ、久しぶりにやってみようかな〜などとワクワクしながら品定めを始めた。

中でもスモーキーなグレーはとっても可愛く見え、『この中だったらコレが一番いいかな💕』と目星をつけた。
 
しかし、ふとある心配が心をよぎった。
 
待てよ?
この若くて可愛いモデルさんが付けていると、スモーキーなグレーはめちゃくちゃ可愛い。
しかしアラフォーの私が付けていたらどうだろうか。微妙なスモーキーグレーだ。

まさかとは思うけど・・・

人様から、白内障を疑われたりやしないだろうか。

一気に不安に苛まれた。
 
何年も前のつけまつげの大ブームのとき、下まつ毛用のつけまつげが全て目尻の小じわに見えるのでは?という、不安に駆られて購入を諦めたあの時の気持ちがフラッシュバックした。
 
あの時は人様から見た皮膚のシワと下まつ毛用のつけまつげの混同を心から心配したが、今回に至ってはもう眼球自体にかかる容疑について気を揉んでいる。
 
やっぱやめとこう。。

一気にテンションが下がり、娘達にせがまれた“鬼滅の刃”のクリアケースだけをレジに持っていきお会計を、済ませた。

白内障を疑われることが怖くてカラコンを断念するなんて・・・時の流れはなんて残酷なのだろう。

お会計を済ませた私は子供たちを連れて切なさにしんみりしながらトイレに向かい、ぼんやりと用をたした。

すると、ショッピングモールで別行動していた主人から電話が、鳴った。
 
電話に出てみると主人が開口一番
「お前、今めっちゃ呼び出されてるよ!笑笑」というではないか。
 
慌てて、トイレから飛び出し館内放送に耳を澄ますと、『先ほど〇〇(カラコンを諦めた店舗名)をご利用いただきました〇〇〇〇〇様』と、私のフルネームが気取った声で連呼されており

、おことづけがございますという内容の放送が数回繰り返されていた。

慌てて先ほどのお店に戻ると、なんと私はクレジットカードを抜き忘れていたようで、店員さんが私のカードを持って待ち構えていた。
 
あ!
すみませんでした!(-_-;)
ペコペコしながらカードを受け取り、妙に神妙な気持ちになった。
 
毛穴も馬鹿になり、体もお肌も眼球も衰えていりゃ、負けじと脳も働いていないではないか。
 

幼少のころ、デパートで母とはぐれて迷子の呼び出しをされて以来40年ぶりに、フルネームを館内放送で連呼されるという辱めに小さくなりながら、すごすごとショッピングモールをあとにした、先日の出来事であった。

ABOUT ME
富岡紗和子
神奈川県湘南在住、占い師(帝王命術売占い鑑定師・四柱推命鑑定師)ラジオパーソナリティ・エッセイ作家・法人役員(役員暦24年)の富岡紗和子です。 現在、二人の娘を持つ母でありサーフィンとビールをこよなく愛するアラフィフ女子です♪ ⇒ ⇒ 詳しいプロフィールはこちら

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