エッセイ

自分に厳しく~やり方間違ってるけど~

よく、『人に厳しいくせに自分に甘い人』という言葉を耳にすることがある。

ママ友と話をしていても、ご主人に対してこういう不満を持っているパターンがすごく多い。

人の批判はずいぶんな口調で上から発言するのに、自分は同じようなことしてるとか、
奥さんにかなり細かいことを言うくせに、自分は小さい子供のお世話に奮闘する忙しい奥様に少しも手を貸してないとか・・・

まあ世の中にはこの手の『人に厳しいくせに自分に甘い人』はかなり見かけるものである。

近くでこういう人を目の当たりにする状況にある人は、そのたびにかなりイラッ!としてしまうものだろう。

そんなママ友の愚痴を聞いているといつも、ある意味『自分に厳しすぎる』うちの主人のことを考える。

うちの主人の『自分に厳しい』は、世間一般的に言うような、ストイックで真面目でいつも一生懸命などという立派なイメージとは一風変わっているのである。

うちの主人の“自分への厳しさ”は、主に何かを食べたり飲んだりしてむせてしまった時などに突如として発揮される。

ラーメンなどの食べ物を、勢いよく吸い込んで突然むせ返ってしまったことが誰しもあると思うが、主人はこれに非常に腹が立つらしい。

これまで何十年もの間、毎日必ず食事をしているにも関わらず、“食事中に間違って気管側に食べ物を吸い込みむせてしまった自分”というものが許せず、突然思いっきり自分の顔をビンタするのだ。

『むせやがって!(ビシ!!!!)このできそこないの体めッ!』みたいなセリフを本気で述べている主人に驚き、最初のうちこそは『むせるってことは気管に食べ物が入らないように防いでくれてるんだから、逆にできそこないじゃなくて正常なんだよ・・・』などとたしなめていた私であるが、こう長年一緒に生活をしていると段々そのようないたわりの気持ちも薄れ、近頃は自らの手によって殴られている主人が面白くて仕方がないという領域にまで到達してきた。

ある時は、あまりにも強く自分を殴り過ぎて口の中が切れてしまい、主人はその後しばらくの間、痛みを引きずり苦労していた。

その時はちょうど夫婦喧嘩の後だったため、『よくやった!』と主人の右手を褒めてつかわしたい気持ちにさえなったものだ。

この私が手をくださなくても勝手にセルフで成敗をしてくれるのだ。こんなにありがたい話はない。

またつい先日は、出かける途中の車内で私に一生懸命何かを話していた主人は、話の肝心なところでなぜか噛んでしまい、「大事なとこで噛んだから話がうまく伝わらなかった!くそ!」と自分に腹を立て、やはり突然自分の顔をひっぱたき、その衝撃で鼻水を垂らしていた。

なんということだろう。

劇場で一人芝居なるものに挑戦する俳優さんでも、このタイミングで鼻水を垂らすという次元までのミラクルは起こせないのではないか。

ちゃんと奇跡的なオチまでつけてくれるとは、素晴らしい自己完結である。

・・・と、こんな休日の穏やかな昼下がり、長年一緒にいる主人について改めて文章に書き起こしてみると、普段忘れがちだが、私ってだいぶ変な人と結婚生活を共にしてるんだなという現実を改めて痛感する。

いや、こんな重大なことを普段忘れて生活しているということは、長い年月をかけ私の感覚もかなり麻痺してきていることを否めない。

慣れとは恐ろしいものである。

そしてたった今、優雅に昼間っからお風呂に入っていたらしい主人が、ウキウキした表情で私のいる部屋に入ってきた。

どうやら主人はセルフカットでヘアスタイルを整えようと、そのやり方をスマホで検索しているうち、なぜか関連記事として表示されてきた『アンダーヘアを剃り落とすメリット』という記事に心を奪われ、興味が完全にそちらにそれていき、ついに、お風呂でアンダーヘアをツルツルに剃り落とすという暴挙に出たようだ。

『アンダーヘアを剃り落とすメリット』なる記事の筆者も、自分の書いた記事を読み、こうも簡単に実行に移す人間がいるとは思いもしなかっただろう。何かを発信する人というのは、その先の影響力をよく考えなければならないと改めて実感する。

部屋に入ってくるなりなんとも嬉しそうに私に向かって小学生のようにツルツルなった下半身を露出する43歳の主人・・・早くしまってくれ・・・。

・・・まぁいい。100万歩譲って、そんなことはいい。

だが、アンダーヘアを剃り落とす為に、誰のかみそりを使ったのだ?

今、お風呂に置いてあるソープ付きの私のかみそりに、主人のアンダーヘアがたくさんはさまっているのではないかと考えると、無性に腹が立ってくるのを抑えることができない。

今だよ!!

髪の毛のセルフカットを検索した結果、なぜかアンダーヘアをツルツルに剃り落とすことに頭がいっぱいになった愚かなオヤジを、鼻血が飛び散るほどぶっ飛ばしてしまえ・・・!!さぁ遠慮なく!!!

そう思うのだが、こういう肝心な時に限って主人の「自分への厳しさスイッチ」はスルーされるのである。

『剃る前に一度毛を短くしたほうがいいと思ってハサミで切ったら、タマをはさんじゃってちょっと血が出たんだぜ!?』と武勇伝ぽく語っているがそんなエピソードなど心底どうでもいい。

ちょっとむせたくらいで自分自身をひっぱたいている主人、己の罪の重さの査定基準が明らかに間違っていることを、自分で気づいてくれる日はいつか来るのだろうか?

こんな主人を、特に期待もせずに今後もしぶしぶ見守っていこうと思う。

ABOUT ME
富岡紗和子
神奈川県湘南在住、占い師(帝王命術売占い鑑定師・四柱推命鑑定師)ラジオパーソナリティ・エッセイ作家・法人役員(役員暦24年)の富岡紗和子です。 現在、二人の娘を持つ母でありサーフィンとビールをこよなく愛するアラフィフ女子です♪ ⇒ ⇒ 詳しいプロフィールはこちら