10代〜20代のイケイケの頃、
何度も通っていた
市民プールがある。
(しょっぱなから〝イケイケ〟という
死語についての指摘に怯えながら、
あえて〝イケイケ〟と言わせてもらう)
当時、ガングロギャルなる文化が
大流行していた。
今考えると、
可愛くも何ともない汚いアイメイクと、
アダモちゃんさながらの白いリップ、
そして白メッシュのロングヘア。
画像:アダモちゃん
世間では安室ちゃんが
ギャルのカリスマ
と、もてはやされ
アムラーなる若者が全国に
大量発生したが
アムラーと呼ばれる割に
安室ちゃんとは
似ても似つかない顔と
体型のギャル達が
街を席巻した。
私もその一人であった。
しかし、しばらく続いた
ガングロギャルブームが、
私の中で終焉を迎えるきっかけとなった
ある出来事があった。
毎月、美容室で入れ続けていた
白メッシュであったが、
ある日美容師さんから
『もう、メッシュ入れるとこないよ
あとは、逆に
黒でメッシュ入れるしかないかな』と、
白メッシュ限界宣言が出されたのである。
気づけば私の髪は、
白メッシュの入れ過ぎにより
ほぼ白髪になり
山奥で包丁を研いでいる
伝説のお婆さんに近い雰囲気
を醸し出していたのだ。
美容師さんから、
逆に黒でメッシュ入れる
と提案されたそのとき、
長いこと『ギャル命』を
名乗っていた私の中で、
ギャルに対するこだわりが消え、
今までとは違う
自分になりたい
という願望が
湧き上がってくるのを感じた。
そして、私のその願望を後押ししたのが、
空前の藤原紀香ブームであった。
お肌は色白で、
ナチュラルなカラーのヘアを軽く巻き、
膝丈スカートに、
厚底ではないハイヒール
ギャルとは正反対の
綺麗めお姉さんとして
颯爽と登場した彼女の雰囲気に
心が惹かれていたところへの、
白メッシュ限界宣言
だった。
もうギャルは
終わりだ
そう感じ、その日から私は
『綺麗目お姉さん(風)』へと
転身を目論んだのであった。
ある夏の日、
私と同じ経緯をたどり
ガングロギャルから紀香系お姉さん(風)に
転身を果たしたもう一人の友達と、
冒頭でお話した市民プールへやってきた。
友達と私はしばらくの間、プールサイドで
日焼け止めを塗ったり寝そべったり、
サングラスをかけて髪をかき上げたりと
いい女ぶることに
いそしんでいたが、
その日は猛烈な暑さで、
いてもたってもいられなくなってきた。
すると限界を迎えた友達が
プールに入って
犬かき競争しようよと
唐突に提案してきたのだ。
私は
『おいいねぇ』と
すぐに賛同した。
よーい、ドンッ
(掛け声が昭和)
自称〝藤原紀香系〟の私たちは
勢いよく犬かきを始めた。
その時である。
ねぇねぇ
お姉さんたち
キレイだね
と、メンズから声をかけられたのだ。
ナンパである。
声の方をチラ見するとメンズは
『お姉さんたち、何してるの』
と続けた。
何してるの‥‥
私たちが、
何してるかですって‥‥
言えないっ
私には言えない
犬かき競争。
‥‥だなんて絶対言えない
私はその状況に耐えられず
犬かきを停止し、足をついてしまった。
慌てて友達の方を確認すると、
友達はナンパの声が
耳に入っていないかのように
『すん』とした表情で
犬かきを続けている。
つ、強い
なんて
ハートの強い女だ
この状況でなお、
勝負にこだわるとは‥‥
ナンパなどに振り回されないギャル魂、
健在である。
私は、『何してるの』の
質問への答えを濁したまま
なんとかナンパ男性を振り切ると
迷いのない力強い犬かきで
私から離れていく友達の背中を、
歩いて追った。
私の負けだ‥‥
犬かき競争にも負けだし
ハートの強さも完敗だ。
悔しい‥
いや‥‥‥
そこじゃない
だめだ。
これは、根本的な意識改革が必要だ。
藤原紀香は、市民プールで
犬かき競争など絶対しないッ
否(いな)
市民プールなど、
来ないっ
見た目だけ綺麗めお姉さん系へと
転身を果たしたとて、
中身は何ひとつ
変わっていないではないか
これじゃダメだ
中身も綺麗なお姉さんを目指さなくては
そのためには、
何をすれば‥
・・・・・・・・・・・
あれから
若かりし頃に通い倒した
この市民プールに
昨年、娘達を連れて
久々に遊びに来てみた。
売店で注文した
ラーメンを目の前に私は
いただきマンモス
と言い、
小学生の娘から
『そういう時代の人って
バレちゃうよ』と
小さく注意された。
どうやら私の意識改革とやらは
不発に終わっているようだ。
そしてこれからも
改善が見込める気がしない。
‥‥中身も綺麗なお姉さんになるには
どうしたらいいんだろう‥‥
ってその前に
お姉さんじゃ
なくなっちゃった
じゃないか
永遠に出ない答えに頭を抱えた、
思い出の市民プールでの一件であった。