先日、ニュースで「セシルマクビー」の全店撤退が報じられた。
「セシルマクビー」と言えば渋谷109(マルキュー)で14年連続でトップに君臨した
私たち世代には思い入れのあるブランドだ。
アラフォーになった今では「セシルマクビー」で私は買い物をすることは全く無くなっていたが、青春の思い出としてこのブランドは深く心に残っている。
10代の頃はアルバやミ・ジェーンと同様に大好きで、よく買い物に訪れていたし、その後、池袋のファッションビルのとあるショップでアパレル勤務を始めた私は、お正月の初売りの時など、半日での中間売り上げ報告書を眺め、同じ館内にあった「セシルマクビー」の爆発的な売れ行き具合に、同じストアで働くスタッフと感嘆の溜息を漏らしたことをよく覚えている。
そんな「セシルマクビー」の全店撤退は、まさに一つの時代が終わったのだな、時代は変わっていくのだな。ということを改めて考えさせられる出来事であった。
そしてその流れで、ある出来事を思い出した。
私が池袋の学校に通っていた18歳くらいのころ、一緒に学校に通っていた同じ年の親友の話だ。
彼女も当時、いわゆる“ギャル”であり、通学によく「セシルマクビー」の白の上下のパンツスーツを着ていた。
そんなある日、学校が終わり帰宅途中の電車の中で、私たちはある男の子に話しかけられたのだ。
ドレッドヘアでダンサー風のファッションに身を包んだ彼は、やはり当時の「イマドキ」のギャル男っといった雰囲気で、「セシルマクビー」の白の上下のパンツスーツを着ていた親友のことがとても気に入った様子で、地元の駅に着くまで嬉しそうに彼女に一生懸命話しかけていた。
私はもう一人一緒にいた別の女友達と話していて、ドレッドの彼とセシルスーツの親友の会話は全く聞いていなかったが、ドレッドヘアの彼が親友を気に入っていることだけはすごく伝わっていた。
地元の駅に着き、みんなで電車を降りたのだが、ドレッドヘアの彼は親友に電話番号を聞くこともなく「それじゃ、またね!」とさわやかに立ち去って行った。その姿は、私たちの中で強烈に印象に残った。
「イマドキ」のギャル男が気に入った女の子の電話番号も聞かないで立ち去るなんて・・・当時の男子は今の男の子と違い、いわゆる肉食系と呼ばれるタイプが多かったため、「電話とか聞かないんだね?硬派なのかな?」と、その後、女3人で驚いて話し合ったのを覚えている。
あれから〇十年!
きみまろの漫談のお馴染みのキメ台詞ではないが、私たちに平等に長い月日が流れ去ったある日、当時「セシルマクビー」の白の上下のパンツスーツを着ていた親友が勤務している美容室にあの時のドレッドヘアの彼が偶然、お客さんとしてやってきたのだ。
親友はその彼があの時のドレットのギャル男だと気づいたようだが、彼は親友のことを覚えていなかったようだった。
彼はもともとおしゃべり好きなタイプなようで、また美容室で色んな話をしていたらしいのだが、突然、「自分は若い時に一つだけ物凄い後悔していることがあるんです」と切り出したそうだ。
それはなに?と聞いてみると、その彼は、
「若いころ、電車の中で会った物凄く可愛い子がいて・・。白の上下のパンツスーツ着ててギャルで超かわいい子だったのに、電車を降りた時、電話番号も聞けず別れてしまって・・・本当にそれを今でもめちゃくちゃ後悔してるんですよ」と言うではないか・・・
それを聞いた親友は満を持してその彼に、
「それ、私だよ♥」と告げたそうだ。
・・・だが、一瞬の静寂のあと、彼は爆笑しながら「そんな訳ないじゃないですかぁ!!!(笑)」と言い放ったそうだ。
親友が何度、「だからほんとに私だよ?」と食い下がっても「ご冗談を!」と爆笑で流されたというのである。
電車に乗った駅や下りた駅、乗っていた車両なども含め、彼の細かく覚えているシチュエーションは当時の私たちの覚えているそれと全く一致していたし、なにしろ親友本人が彼の顔を覚えていたのだから、その時の“ギャルで超かわいかった子”は間違いなく彼女本人なのである。
にもかかわらず、恥をしのんで「それ、私だよ♥」と何度正解を告げても大爆笑で流されてしまった親友・・
長い月日が流れ、当時の彼の中での記憶とはまったく違う風貌に変化し、完全に、「ノリの良いオモシロおばさん」として受け流されてしまうという結末を迎えた親友からの泣きの報告を受け、私はあまりにも可哀想すぎて腹筋がおかしくなるほど笑い崩れたのであった。
ドレットの彼が、その時勇気を出して電話番号を聞くことをせずに別れてしまったという後悔のあまり、記憶に残る親友の姿をどんどん美化して長年胸に刻んでしまっていた、という事実を引き算しても、せっかく運命の再会をしたというのにまたしても二人はすれ違ってしまったのである。
運命(老化)とはなんて残酷なのであろう。
当時一世を風靡した「セシルマクビー」の全店撤退のニュースで『一時代の終わり』を真っ先に感じたと同時に、当時セシルのパンツスーツをバッチリ着こなしていた可愛いギャルが、自ら名乗り出たにも関わらず「ご冗談を!」と相手にしてもらえないほど変貌するという恐ろしい時間の経過を目の当たりにした珍事件を思い出し、止められない時の流れに若干の恐怖を感じた私なのであった。